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手段を選ばずしつこくコストダウンいじめするアップルの調達”ターミネータ”副社長は、同社の次のスターかーウォールストリートジャーナル (2020-01-29)

「テクノロジーの世界でアップル社の地位がどう進化したかを理解するためには、同社の最重要幹部の1人が現在、コスト削減を追い求めてサプライヤーを苦しめる人物だということを頭に入れておく必要がある。
 調達部門担当副社長のトニー・ブレビンス氏(52)は、有利な条件を獲得するためであれば、ほとんど手段を選ばない。...同氏はターミネーターならぬ「ブレビネーター」として知られる。」で始まる記事がウォールストリートジャーナルに掲載されたことを契機に、記事内容がかなり過激な内容ゆえに、米国の多くの情報ソースでTony BlevinsもしくはBlevinatorの言葉がわっと飛び交いました。

そして1月27日に記事の全文翻訳がウォールストリートジャーナル(日本語版)で提供されるに至り、アップルの調達手法の解説が日本語でも読めるようになりました(因みに「苦しめる」の原文のbadgeringは「しつこくいじめる」のニュアンス)。

見方の違いでいろいろ言い分はあると思いますが、とにかく面白い記事です。

記事の概要は以下。

・アップル社は、先見性のある経営幹部(Steven JobsやJony Ive)を擁する企業から、高い利益率確保を目指す巨大事業へとイメージを変えつつある。
・"operational genius”のティム・クックは、アップル社の効率的なサプライチェーン構築を進めたが、現状では、コスト抑制が非常に重要になっている。
・ブレビンスは、コスト削減交渉のために手段を選ばない。また、ロビーでサプライヤーを競合サプライヤーの目にさらしたり、UPSとの契約打ち切りを競合のフェデックスを使ってUPSに送ったり、アップルと継承中の半導体メーカーへの支払いを遅らせるように、下請けサプライヤーに要請したりとかもやっている。

・さらには、ハワイで定価5ドルを2ドルに値切って買った首飾りを常に身に着け、部下たちに「定価で買うなよ」と思い知らせている。
・製品需要に確実に応えるため厳格な納期遵守基準を定め、半導体調達を内製に切り替える通達は自らが実施した。

・このような結果、アップルはインテルの最新半導体を、サムスンの他社同等品調達の半額の10ドルで購入できている。
・ブレビンスは詳細コメントは避けたが、「私は会社に忠実な人間だよ(I’m a loyal company guy)」と語った。

・コスト最小化と製品の売上げ維持がアップルの利益率の基本だが、コスト削減の方が売上増よりも利益貢献しやすいことは、ティム・クックも分かっている。

・アップル新本社建設で、従来例がない規模(約1,000億円)の壁面ガラス調達を担当した時は、応札サプライヤーを同一ホテルの別々の部屋に待たせて、ブレビンス氏がそれぞれの部屋を回って、交渉テクニックを駆使し、数百億円の削減を達成した(人間リバースオークションみたいですね)。

・以前の同僚は「彼の仕事は海賊のように町を襲撃して、全ての物資を奪い去ることだ。ヒツジの毛を刈るのではなく、殺してしまうことに相当する」と語っている。
・ブレビンスは、ティム・クックが出身企業のIBMから引き抜いた人間であり、トイレットペーパーなどの日用品調達からアップルでのキャリアを始めたが、頭角を現し、iPodのメモリーチップ5年間供給契約で名をあげた。
・その後もサプライヤー競合策を採り、iPhone部品調達ではサプライヤー切替をちらつかせ、数量確保した。さらに値下要請を断って実際に切り替えられた例もある。
・さらに、サプライヤーと仲良くなり、コスト削減の手を緩めないように、購買スタッフは定期的に担当替えされる。

・趣味のマッスルカーについては「死にたくないということだけをブレーキに、スピードと興奮を求めて」運転すると言っている。

・頻繁に交渉するクアルコムによると「何かを依頼するときはフレンドリーになり、値下げを要求するときは計算をし、要求に抵抗されたときは厳しい態度」をとる。
・また必要があれば、アップルとの巨額取引を盾に様々なリベート(割り戻し)を要求してくるし、特許ライセンス料が高すぎると訴訟や支払い拒否を行い、それによりサプライヤーの経営が傾くこともある。
・さらにサプライヤーにとって「拷問のような」機密保持契約を強いてくるし、調達品を自社内製に切り返す場合は、サプライヤーから技術者の引き抜きも仕掛けてくる。

具体的なサプライヤー社名は記事原文で把握できます。
さらにこの記事に対して、Engadget 日本版は「アップルの調達担当副社長、コスト削減とサプライヤーとの協力で会社を支える(WSJ報道)」のタイトルで報じていますが、さすがに「協力」は違うだろうと思います。

参考)
Jobs, Cook, Ive—Blevins? The Rise of Apple’s Cost Cutter ー Wall Street Journal (2020年1月23日)
https://www.wsj.com/articles/jobs-cook-iveblevins-the-rise-of-apples-cost-cutter-11579803981

アップルの調達担当副社長、コスト削減とサプライヤーとの協力で会社を支える(WSJ報道)
https://japanese.engadget.com/jp-2020-01-26-wsj.html

Apple Still ‘Old School’ in Procurement and Supplier Relationship ManagementーTalking Logistics
https://talkinglogistics.com/2020/01/27/apple-still-old-school-procurement-supplier-relationship-management/