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新コロナ発生下のサプライチェーン回復 - 現状対策と将来への備えーマッキンゼー (2020-03-31) | ||
3月になって、海外のコンサルティグ会社や大学からいくつかの有意義な論考が投稿されています(但し残念ながら日本語に訳されていません)。そこでそれらのサマリーをまとめて投稿していこうと思います。 最初はコンサルティング会社のマッキンゼー社のサプライチェーン領域に関する論考です。マッキンゼー社は「COVID-19: ビジネスへの影響(Implications for business)」で以下の5領域に関する論考を提供しています。 A.職場防衛 (Workforce protection) B.サプライチェーンの安定化(Supply-chain stabilization) C. 顧客対応(Customer engagement) D. 財務面でのストレステスト(Financial stress test) E. 統合指令センターの設立(Nerve-Center integration) ==== サプライチェーン領域に関する論考「新コロナ発生下のサプライチェーン回復 - 現状対策と将来への備え(Supply-chain recovery in coronavirus times—plan for now and the future)」では、サプライチェーンを「Tier-nサプライヤーから最終顧客まで」の範囲で捉えています。部材供給のみの”狭い”範囲のサプライチェーンに留まてはいません。 現在生じている部材供給の断絶は単純に解決できるものではありません。そうすると、どこに製品を提供するのか、そのために何を生産するのか、その際の収益はどうなるのか....そこまでを考えた最適化が必要になってきています。 逆も間もなく生じそうです。従来にない変動幅で売上調整が発生します。その際には、それに合わせた生産調整、さらには部材購入調整が発生します。 ただし、このような広義のサプライチェーンで部門横断の活動を行うためには、統一した司令塔が必要になります。それが次の投稿で取り上げる「Nerve Center」になります。 一方で、特定の部材供給断絶により製品の生産量が減少すれば、その製品の他の部材供給サプライヤーへの発注は止まります。逆に断絶解消となれば、急速にその他部材の発注を再開が発生します。そのようなサプライヤーヘの発注量変動をどう的確に伝達し、うまく調整するのか....この役割が購買部門に求められます。 (販売量変動への対応でも同様な調整が発生します。) そして明確に認識すべきは、これは危機管理(Crisis Management)の領域の話なのです。平時にリスクに備えたBCPの仕組み作りをする話ではありません。「戦争状態」はフランスのマクロン大統領の言葉ですが、まさに”有事”において、事前準備を活用するとともに、突発事態をうまく対応し、どう回していくかが取り上げられている....それがこの論考の前提・背景の文脈(コンテクスト)となっていることを理解して、論考を読み進める必要があります。 ■危機に直面している現在にやるべきこと 論考では、サプライチェーン領域で「やるべきこと」として、次の6点をあげます。 1.サプライチェーン(複数階層)状況の透明化。クリティカル部材を明確化し、ボトルネックを明確化して監視し、代替ソースを見つける 2.保有在庫量を判断する(補修部品類も含めて)-生産と顧客提供をいつまでできるか 3.最終顧客の現実的な需要を見測り、供給断絶の影響をどうするかを探る 4.従業員の稼動を維持しつつ、生産能力・出荷能力を最適調整する 5.物流手段・能力を確保する 6.業務を回すためのキャッシュと運転資金をやりくりする 部材供給、さらには自社生産拠点の停止を想定して、顧客への製品販売をどう調整するのか、そのための生産体制をどう維持するか、そしてそのための資金確保と収益予測をどうするのか...そこまでを論考では範囲としています。 しかし購買部門に限れば、生産部門などとも協調しながら主体的に実施すべきは「項目1」になります。 では購買部門は何をすべきなのでしょうか。論考では3つがあげられます。 (なお買い手企業は直接取引先のTier-1サプライヤーは見えているものの、その先のTier-2以降は不透明であることが前提されているようです) なすべきこと#1: クリティカル部材の特定: 生産部品表(BoM)などの調達部材をチェックし、高リスク地域から調達され、代替品がない部品を特定する。 なすべきこと#2: 個別部品の状況モニタリング確立: Tier-2以下のサプライヤーで供給断絶の兆候が生じた場合の情報共有体制をTier-1サプライヤーと敷く。それとともに、買い手企業はTier-n全部のサプライヤーに目を配り、在庫水準低下や納期長期化などのアラート兆候を監視する。Tier-1サプライヤーが供給ネットワークを把握できていない場合は、調査会社データを活用して、買い手企業がモデルを作成して、Tier-1と共有することも一考。 なすべきこと#3: 代替サプライヤー探索: 代替サプライヤーがあるかの探索を行うべきだが、即座にはうまくいかない場合も多いことは覚悟すること。 さらに「項目1」と並行して、「項目2」の在庫確認(含:部材)も行う必要があります(これに購買部門がかかわる場合があります)。そして、このように状況を明らかにしたところで、サプライチェーン部門横断のNerve Centerでの判断と対策立案が行われねばなりません(Nerve Centerは次の論考で取り上げます)。 そして最後に、やや付け足し気味にも思えますが、今回の結果はデジタル化・仕組み化して将来の強化に活用すべきとの提言で、論考は結ばれています。 ==== 今回の新コロナウイルスの非常事態はこれまでの小規模供給断絶とは異なる事態、すなわち「クラッシュ」が発生しています。すなわち私の論考「供給クラッシュ~全体破断状況にいかに対処すべきか」の「図3.企業に損失を与える事態の分類」の中の「クラッシュ型重大危機」に該当する事態が発生しています。 そこで必要になるのは、BCPなどの「事前予測に基づく予防的活動(Planning)」の仕掛け・仕組みづくりなどではありません。上記論考の「図4.リスクとクライシスのマネジメントの違い」の「現状を最良の状態に転向するクライシスマネジメント」をどうするかの検討になります。 ここで取り上げているマッキンゼー社の「「COVID-19: ビジネスへの影響」シリーズも、そのような「クライシス・マネジメント」の文脈であることは、繰り返しになりますがご理解ください。 それとともに、事態に後追いになることなく、先手先手で対処をしていくかの視点で書かれていることにも留意しておく必要があると考えます。危機においては、後追い対応は悲惨です。 参考) COVID-19: Implications for businessーMckinsey (2020年3月開設, 日々更新) https://www.mckinsey.com/business-functions/risk/our-insights/covid-19-implications-for-business 供給クラッシュ~全体破断状況にいかに対処すべきか(前半)-It's購買系ブログ(2011年12月1日) http://www.itscobuy.com/blog/?p=54 供給クラッシュ~全体破断状況にいかに対処すべきか(後半)-It's購買系ブログ(2011年12月1日) http://www.itscobuy.com/blog/?p=54 ※上記2点については、書籍化されましたが、筆者の意図しない改訂が入りました。上記の原本をご参照ください(2011年の古いものですがご容赦ください) ※なお、今回の事態を反映して整理した論考は4月に提供予定です。 |