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コロナウイルスへの対応: 最小規模でも統合司令塔(Nerve Center)の確立を-マッキンゼー (2020-03-31)

危機の状況変化に柔軟に対応して全社横断で各部門に指示を出す統合司令塔であり、経営トップが関与しつつ、構成メンバーが自律的に対応活動ができる組織機能...この論考の「Nerve Center」を、論考内の言葉を選びながらサマリーすると、こうなるのではと思います。

先の投稿でも述べたように、マッキンゼー社はサプライチェーン領域以外の従業員職場環境などを含めて「COVID-19: ビジネスへの影響(Implications for business)」連載の対象としています。ゆえに論考ではサプライチェーンを以外も論じられますが、サプライチェーン領域に限れば、このNerve CenterはMITのCenter for Transportation & Logisticsの「緊急オペレーションセンター(EOC)」(下記3月1日投稿参照)と同等の位置づけになります。

ではNerve Centerはどのような機能を有すればよいのか。
それを論じる前にクライシス・マネジメントの4つの失敗原因が、論考では提示されます。
すなわち、
#1: 発見(Discover)の失敗: 的確な状況把握ができず、楽観的に読み間違う など
#2: 判断(Decision)の失敗: バイアスがかかって迅速に適正十分な判断できていない など
#3: 対策設定(Design)の失敗: 連携のないバラバラな対応が各部門ごとに実施されて混乱 など
#4: 実施(Delivery) の失敗: 実行の遅れや失敗が生じて成果が上がらない など

それに対して、統合Nerve Centerでは、上記の4つの”D" をうまく実施しなければなりません。

そのためには、統合司令塔のNerve Center配下に各機能(職場防衛,サプライチェーン、顧客対応、財務)がぶら下がるような組織形態が必要とされます。サプライチェーンなどの各機能から情報を得て、それから意思決定と対策定義を行い、その進捗を管理するのが、統合司令塔のNerve Centerにになります。そしてここには高次の意思決定ができる経営・事業トップ層が参加している必要があります。

しかしNerve Centerは、全社横断の統合司令塔になるゆえに、複雑にぐちゃぐちゃと考えると、うまく設置・運営できません。そのため設置・運営の主な留意点として、以下の4つが示されます。

#1.迅速な設置:
社内調整などの時間をかけずに迅速に設置し、状況に応じて役割は柔軟に変化させる。リーダーには相応の意思決定権限があること
#2.ミーティングの内容:
ミーティングは重要事項の決定に重きを置く。単なる報告や些末なことに時間を浪費しない
#3.問題の管理:
問題(Issue)は対応可能リスクと予測される脅威に分けて一覧化する。問題は発生可能性、規模、発生タイミングを明確にし、費用対効果計算も対応策を考える
#4.対応策の立案:
代替策(トレードオフ)を比較検討の上で対応策を決定し、さらに対応策の達成目標や進捗管理指標を明確に定義する

このような論旨で統合司令塔Nerve Centerの役割が説明されています。

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では具体的な事例はあるのでしょうか。東日本大震災時点の事例ですが「供給クラッシュ~全体破断状況にいかに対処すべきか(後半)」にも例を取り込んでいます。ヒューレット・パッカード(HP)社の「仮想シチュエーションルーム」と匿名企業の非常時対策チーム事例の2つを収録しています。

特に2つ目は実際に行われた手続きをできる限り詳細に記述してみました。この企業では、市中在庫の購入にも手を回し、どこまで確実なのか、どこが不確実なのかの概要把握を対策チーム立ち上げ後48時間で完了し、以降は不確実部分のフォローと、突発事態対処に以降の重点を移しました。48時間後には、大騒ぎのバタバタ混乱は終息し、少なくとも整然とした状況を取り戻しています。

この成功要因としては、2つが挙げられます。まずは、経営トップを含めた危機体制が即座に立ち上がり、市中在庫の迅速な見込購入の判断が行われています。その際には、部門横断で販売生産計画のシミュレーションを実施し、意思決定の材料データにも使っています。2つ目には、10年前にもかかわらず、サプライヤーの生産・在庫計画をデジタル連携する仕組みを作り上げていました。その機能をフル活用しています。

後者はサプライヤーとの力関係もあり実現が難しい場合もありますが、どういう事態が発生したらどのレベルの体制を立ち上げるかの危機対応基準が「クラッシュ型重大危機」の範囲まで想定して定められていたことになります(震度5の地震でサプライヤーに電話確認など購買部門の単独での基準までは、日本企業でもよく見かけますが)。

参考)
サプライチェーンBCPは適切に発動したのか、新コロナウイルスでの教訓まとめが始まる -Wall Street Journal他 ーIt's購買系(2020年3月1日) https://www.facebook.com/itscobuy/posts/3032439166787307

COVID-19: Implications for businessーMckinsey (2020年3月開設, 日々更新)
https://www.mckinsey.com/business-functions/risk/our-insights/covid-19-implications-for-business

供給クラッシュ~全体破断状況にいかに対処すべきか(前半)ーIt's購買系ブログ(2011年12月1日)
http://www.itscobuy.com/blog/?p=54
供給クラッシュ~全体破断状況にいかに対処すべきか(後半)ーIt's購買系ブログ(2011年12月1日)
http://www.itscobuy.com/blog/?p=54

※上記2点については、書籍化されましたが、筆者の意図しない改訂が入りました。上記の原本をご参照ください(2011年の古いものですがご容赦ください)
※なお、今回の事態を反映して整理した論考は4月に提供予定です。