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製造業の自国回帰などと言ってはいるが、「言うは易し、行うは難し」-Harvard Business Review (2020-04-16)

2009年のマッキンゼー賞受賞論文「競争力の処方箋」、そして2012年の「アメリカ製造業復権のシナリオ」で、米国「ものづくり」力弱体化の問題を指摘した、バーバードビジネススクールのウィリー C. シー教授の論考が4月15日に発表されました。長文で辛いですが、最近30年の製造業の歩みを俯瞰した上で、新コロナ禍後の処方箋を論じています。

最近30年の製造業の歩みの俯瞰は、さすがと思います。今後の検討材料としても、一般知識としても有効です。一方で、供給ショックの処方箋については、東日本大震災の際の「第33回関東購買ネットワーク会配布資料 「報道記事から分類した非常事態対応策事例集(http://www.co-buy.org/materials/20111204_kanto_no33_2.pdf)」で、結構網羅しているかと思いました(そんなに奇策はないですよね)。

以降に論旨の抜き書きを付します。かなりお進めの論考と思います。

■現在のサプライチェーンは特有ノウハウをもつ企業の相互依存で成立している
1社、1地域ですべてをまかなう時代はではなく、専門性ノウハウをもつ企業から構成部品を調達し、リチウムなどの原材料は地域外の特定産地に依存するようになっている。

そして米国を始めとする企業は、複雑だが効率的で生産性の高い形に、サプライチェーンを進化させてきた。

例えば、シンプルな省エネ型デスクランプであっても、組み込まれているLEDライトは、その製造の専門ノウハウがあるハイテク工場で作られている。

最終的には、世界中に散らばっている多くのサプライヤーが、重要な部品を製造するメーカーに依存している、このような分業化が現在のグローバルサプライチェーンの特色である。

メーカーは直接取引するティア-1サプライヤーに、ティアー1はティアー2に依存するといった具合にサプライチェーンの階層化が進み、ティア-3、ティア-4となるとわからなくなるといった複雑な相互依存関係が生じてきた。

■米国企業は、自社生産を含めたサプライチェーン構築能力を失い、外部調達依存になってきた
しかし生産の実施には、単に構成部品サプライヤーを知っているだけでは十分でない。原材料の調達から生産設備・治具の手配、生産・検査プロセスの設計、製造スタッフ育成など、適正なサプライチェーンの構築能力も不可欠である。

製造ノウハウを的確に有する米国企業は昔に比べかなり減っている。製品製造から、海外の生産者からの調達にシフトしたからだ。オフショア製造に多くを依存するある企業は「製造オペレーション指向ではなく、調達指向になってしまった」としている。

■効率化の追求がそのような状態を引き起こした
製造業者は、余剰能力を最小化し工場や設備を最大限に活用する方向を目指す。100%稼動状態(稼働停止なし)で、100%良品(品質不良ゼロ)が最良の状態である。総合設備効率(OOE:Overall Equipment Effectiveness)がその測定指標になる。

資本効率は、株主やアナリストが重視するこの指標は、 遊休設備や効率の悪い設備を持つことを許容しない。結果、アウトソーイングやオフショアリングの後押し要因になってきた。

生産作業の外注化も、業務量変動の緩衝材となる側面もあり、進んできた。外注先も多くの企業需要を集めれば、それを平準化して効率的に実施することができた(いわゆるEMSを言っていると思います)。またこれは、自社設備保有リスクの緩和にはつながってきた。的外れ、時代遅れの設備投資をかわすのに役立ってきた。

■「在庫は悪」のリーン生産の台頭となった
そしてトヨタ生産システム(TPS)に代表されるリーン生産が世界中に広まった。またそれを支えるグローバル・ロジスティックスも発達した。アップルのティム・クックCEOような代表敵企業の経営者が「在庫は「根本的に悪」」を打ち出し、在庫の陳腐化リスクと資金を寝かせてしまう問題点を論じるようになった。その仕組みは、狭いトヨタ地域での「豊田市」モデルから、グローバルなサプライチェーンへまで拡大した。

その結果、原材料や部品、そして販売製品の供給途絶や供給ショックが発生しても、それを吸収する緩衝在庫はほとんど存在しなくなった。

■絶え間なく続くコスト削減要求
製造業の経営陣は、毎年引き続いて自社工場長やサプライヤーに「生産性向上によるコスト削減」を求め続けている。購買の業績達成指標(ボーナス査定基準)は、どれだけ生産性を向上したか(コスト削減したか)である。このような動きが最低コスト追求を生み出し、生産拠点を高コスト地域に維持できなくなり、地理的に離れた低コストの場所に移動する動機となった。

■新コロナ禍は、滅多に起こらない「ブラックスワン」現象ではない
多くの経営者は、新コロナ禍は「ブラックスワン」と捉え、調達先多様化、緩衝在庫保持などにカネがかかることを望んでいない。しかし新コロナ禍は過去15年間で唯一のブラックスワン現象ではない。2008年の金融危機、2011年の東日本大震災、タイの洪水、米中貿易戦争などが発生してきた。この状態では、今後の供給ショック対応に十分ではない。

■この危機を無駄にすることなく活かせ
経営マネジメントは、この機を活用し、自社の供給戦略を評価し、今後のレジリエンスを向上させるアクションを起こすべきである。その際の考慮点(ステップ)には以下がある。

1).重要な部品材の調達先の多様化計画を策定する
これには同一サプライヤーの生産場所の多様化も含む。複数拠点化は発注量配分などの難しさもあるが、検討を要する。

2).多様化できない場合には、安全在庫や戦略在庫水準を見直す
3).物流のボトルネックを検討し、代替案を検討する
4).医薬品のような戦略的コモディティの生産能力維持には、政府補助の補償を獲得も一策

パンデミックと貿易戦争は、グローバルなサプライチェーンと貿易システムの脆さを浮き彫りにしている。経営マネジメントは、この教訓に耳を傾け、より多くのレジリエンス(回復)力を業務オペレーションに組み込むべきである。