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「脱」グローバル化ではない別の動き発生、サプライチェーンのデジタル可視性強化で乗り越えるべきだー世界経済フォーラム (2020-05-02)

ダボス会議などで知られる世界経済フォーラムが、新コロナ禍関連のサプライチェーン関連の論考を3つ立て続けに発表するとともに、全世界の企業が標準的にデータ連携・可視化を行うためのツールキット「Blockchain Deployment Toolkit」を発表しました。一方で4月25日には、中国の国家情報連携基盤である「BSN(Blockchain Service Network」が稼働しました。

”脱”一極(中国)集中、自国優先主義の動きがあり、それが保護主義の悪い方向に進まないかの懸念が、欧州首脳などから示されています。それに対して、もっとデジタル連携を進め、サプライチェーンの可視化、透明化で対応すべきとの別の動きが出ているのは、注目すべきかと思います。

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世界経済フォーラムは、以下のように、サプライチェーンに関連した論考を連続して発表しました、前例にないことと思います。

4月17日:より透明な、グローバルに接続されたサプライチェーンシステムの必要性
4月27日:COVID-19対応: パンデミックが、どのようにグローバルバリューチェンを分断しているか
4月27日:COVID-19危機はサプライチェーンに新技術を取り入れる必要を示している

そして、サプライチェーンをデジタル透明化するために、ブロックチェーン技術を利用したデータ連携のツールキット(導入標準手法)を公開しました。
(原文リンクは、「参考」欄参照)

まず「COVID-19対応: パンデミックが、どのようにグローバルバリューチェンを分断しているか」は現状の分析です。例えば、現在の脱グローバル化動向を以下のように指摘します。

・海外生産の見直しの声が高まっている。多くの先進国では有力政治家が、国外への製造委託の再考を求まる動きがあり、政治家や評論家などの支持が集まっている。
・しかし、サプライチェーンの国有化や地域化は、世界経済での供給者の多様性を低下させ、開発途上国/新興国、特に東南アジア以外の国の経済の発展阻害の危険性がある。

では、それにデジタル技術がどう活用されているか、今後の活用可能性はどうかを論じるのが「COVID-19危機はサプライチェーンに新技術を取り入れる必要を示している」です。以下のような指摘があります。

・企業には、データを適切に分析し、活用できていない状況も多い(データ量は増えているが)
・時代に対応してビジネスを営むためには、テクノロジーを取り入れる新しいマインドセットが重要
・業界を課題となっている新しい動きを常に把握し、チャンスを常に意識できる技術適用を
・重要なのは、組織が常に変化を求め、新しいテクノロジーを受容しようとするビジネス文化の構築
・私たちが生きている時代は混乱に満ちている。一方で時代は、従来にない解決策も提供している。その活用に進む企業が増えれば増えるほど、世界は目の前に待ち受ける多くの課題に立ち向かう準備を整えることができる。

そして対応案として「ブロックチェーン技術を利用したデータ連携のツールキット(導入標準手法)」が公開されるとともに、4月17日の論考「より透明な、グローバルに接続されたサプライチェーンシステムの必要性」では、業界ごとに様々独立的に構築される情報連携ネットワーク(ブロックチェーン技術を採用)を連結し、より広範なデータ連携基盤を作る「Blockchain Integration Hub」の提言がされ、さらにはその中をIoTが収集の細かなデータまでが流れる、巨大なデータ連携によるサプライチェーン可視化のビジョンが説明されます(※1)。

なお、とかくブロックチェーンというと、その技術要素に目が行った論議が進んでしまいがちですが、要は「ブロックチェーンという手軽で抵抗なくデータを連携できる良い手段が出てきたので、これを使おう」という流れに乗ろうと動きになっているということです(ビットコインのような理想的幻想はもはや無い(※2))。
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加えて、中国の国家ブロックチェーン・プラットフォームである「BSN」(Blockchain Service Network)が4月25日に稼働しました。これは誰でも手軽にデータ連携・交換の仕組みができる基盤を提供しようとするもので、「年間約152万円かかる費用が、BNS利用で3万円から4万5000円程度まで抑えることができる」との報道があります。加えて、このプラットフォームの接続ノードを全世界に提供する予定もあり、グローバル標準基盤にする予定もあるとのことです。

かつて、高速道路網での効率的な物流網に模して、米国のクリントン政権が「情報スーパーハイウェイ構想」でコンピュータ間をネットワーク接続する話がありました。それは形を変えてインターネットになり、あれゆるものがそこにつながるようになりつつあります。そして今回は、ネットワーク接続されたコンピュータ間でどうデータ連携をするかの基盤へと話が進んできているように思います。
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ブロックチェーンでのサプライチェーン情報連携の事例(IBMやBMWなど)は最近の企業レベルの発表から、世界経済フォーラムでのより広範囲な適用でサプライチェーン可視化・透明化して強靭化しようとする提案が出現し、別の動きではありますが、世界第2位の経済である中国の国家データ連携基盤の稼働と様々に動きが出てきています。

参考)
The need for a globally-connected supply chain system is clearer than everーWorld Economic Forum (2020年4月17日)
https://www.weforum.org/agenda/2020/04/covid-19-globally-connected-supply-chain-system-interoperability-whitepaper/

Redesigning Trust: Blockchain Deployment Toolkit ー World Economic Forum
https://widgets.weforum.org/blockchain-toolkit/step-two

Managing COVID-19: How the pandemic disrupts global value chainsーWorld Economic Forum (2020年4月27日)
https://www.weforum.org/agenda/2020/04/covid-19-pandemic-disrupts-global-value-chains/

Covid-19 crisis shows supply chains need to embrace new technologiesーWorld Economic Forum (2020年4月27日)
https://www.weforum.org/agenda/2020/04/covid-19-crisis-shows-supply-chains-need-to-embrace-new-technologies/

Thoughtful blockchain implementation is key to improving supply chains in a post-COVID worldーWorld Economic Forum (2020年4月28日)
https://www.weforum.org/agenda/2020/04/blockchain-development-toolkit-implementation-supply-chains-in-a-post-covid-world/

サプライチェーンにブロックチェーン導入を 世界経済フォーラムがツールキットを公開 ーCoinPost(2020年4月29日)
https://coinpost.jp/?p=147688

中国の国家ブロックチェーンプラットフォームが正式ローンチーCoinPost (2020年4月28日)
https://coinpost.jp/?p=147533

グローバルインフラを狙う、中国・国家ブロックチェーン「BSN」とは?ーコインデスク (2020年4月28日)
https://www.coindeskjapan.com/53345/

IBM launches Rapid Supplier Connect to fix COVID-19 health supplies shortages ーSiliconAngel(2020年4月27日)
https://siliconangle.com/2020/04/27/ibm-launches-rapid-supplier-connect-fix-covid-19-health-supplies-shortages/

BMW Set To Roll Out Blockchain Solutions for SuppliersーBusness Blockcahin HQ (2020年4月30日)
https://businessblockchainhq.com/business-blockchain-news/bmw-set-to-roll-out-blockchain-solutions-partchain/


※1:チェーン間接続はブロックチェーンの商用利用「Hyperledger」プロジェクトで検討課題となってきたことでもあります。
※2:そもそも、Hyperledgerなり国家提供なりの総元締めが発生した時点で、ビットコインのような誰も元締めがいない、自律独立な世界実現の理想など、怪しくなってきます。

ブロックチェーンについては「購買ブロックチェーンの正体~概要、採用メリットそして限界」参照
http://www.itscobuy.com/blog/?p=602