Blog"   調達購買関連 最新トピックス
災い転じて福となせ-原材料逼迫はまずは"守り"姿勢も、これを契機に次に"攻勢"へ転じる準備を怠るな-Kearney (2021-10-13)

コンサルティング会社のカーニー(Kearney)が9月と8月に原材料(コモディティ)価格上昇への対応策の論考を2つ発表しました。特に、9月の論考では短期的(今後2~3ヶ月)には防御(ディフェンス)だけど、それ以後は攻勢(オフェンス)にスイッチせよと、採るべき姿勢をより詳細な具体策とともに述べていて興味深いです(最近の論考の中でも優れたものに思えます)。

9月末の論考「コモディティ危機の中で購買部門はどのように成果を上げるのか(How procurement can drive value in a commodity crisis)」では、図2「米国プラスチック市場のサプライチェーン混乱の根本原因 (Root cause of the US plastics market supply chain disruption)」で現在のコモディティ危機が必ずしもコロナ禍の影響だけではないことを示します。購買部門は様々な困難に直面していることが示されます。

しかし現在発生している需給逼迫・価格上昇には、なによりも対峙しなければなりません。
そのためには2段階の対応が必要になるとします。まずは"守って"凌げ、しかしこれを教訓に時機を見て"攻め"に転じよ、です。

まずは短期的な「防御(defence)」、2~3ヶ月を持ちこたえることです。サプライヤーの値上げ要求には一貫したメッセージ(全社で1つの声、標準化された反論)で対応することが求められます。
それとともに、実施すべきアクション項目が列挙されます。
・リスク状況の把握: 売上需要想定や自社在庫高から、いつまで耐えられるかを一元的に明確化する
・コスト構造分析: 便乗的な値上げを防ぐためにも、部材の価格明細構造を追求する
・市場動向把握: 需給状況の動向を把握しておく-短期的なものか、長期的に考えるべきか

そしてこれらに基づいて、サプライヤーと"事実に基づく/根拠ある"交渉を行うことを求めます。
ただし買い手が弱い状況ではサプライヤーが強硬な姿勢を崩さないことも予見されます。その場合は、将来を見据つつ譲歩して、交渉をまとめることも助言されています。
提言されている、短期的"防御"のための実行ステップは、以下になります。
Step1: 迅速な状況診断・分析
Step2: 戦術的な対応策の準備
Step3: 即効策の実施

しかし長期的には、リスク状況・コスト構造・市場動向の直近に明確になった事項を活用して、反転攻勢を図ることで成果を上げることが勧められます。把握したコスト構造は状況が変われば、購入価格見直しに有効活用できます。またゼロベースで社内需要を見直す(要否判定し直す)ことが考えられます(特に間接材)。また場合によっては自社販売への価格転嫁も進める必要があるかもしれません(特に直接材)。
このような短期策・長期策での2段階対応の実施を、この論考は論じています。

一方で8月には論考「変動の激しい原材料市場をどう乗り切るか(How to navigate a volatile raw materials market)」が発表されました(どちらもウィーンのメンバーが執筆主体です)。
9月の論考につながっていく8月の論考では、正確なリスク評価を妨げる3つの障壁-包括的な市場理解の欠如、直取先以前のTier-nでの透明性欠如、市場力学と原材料リスクへの理解不足があるとしています。そして、その状況に対して4ステップの対応を提言します。

対応策1:市場ダイナミクスの理解し、モニタリングする
・基本的な価格要因-なにがどれくらい価格に影響を与えるか-を理解する
・価格動向を把握するための関連情報を入手する
・予想される価格変動を要因に基づき明確化する
対応策2:直取先に加えて、Tier-nでのリスク状況を透明化する
・直取先で購入する原材料のリスク有無・状況を把握する
・さらにTier-nで購入する原材料のリスク有無・状況も把握する
対応策3:効果的なカテゴリー戦略と契約戦略を用いてリスクを軽減する
 (Purchasing Chessboardを引き合いに対応策を紹介)
対応策4:残ったリスクに対応するためのヘッジ戦略を採る

しかし9月の論考が出た現在となっては、8月の論考は十分に参考になりますが、やはり後発の9月の方に意義深さを感じます。ただし”いかにも”の手法的な充実では8月論考に分があると思います。

参考)
How to navigate a volatile raw materials market-Kearney (2021年8月24日)
https://www.kearney.com/procurement/article/?/a/how-to-navigate-a-volatile-raw-materials-market