第4フェーズ:アクションプラン
3つの戦略的対応策のどれに位置づけられるかによって、購入量、購入価格、サプライヤー選定、代替購入品、在庫方針など購買戦略の個別要素への対応が異なってくる (図5参照)。
短期的には、サプライヤーの強みが購入企業を上回り、多様化戦略を要請されるストラテジック品目に対しては、分散している購入量を単一サプライヤーに集約して購入時の立場を改善するとともに、価格上昇を受け入れ、購入量全てを賄う一元的な購入契約を結ぶべきである。その上で、単一購入先に依存する長期的リスクを軽減するために、代替サプライヤーや代替品目の探索、さらには自社内製化を検討すべきである。一方で、サプライヤーよりも購入企業が強い場合には、複数サプライヤーに購入量を拡散し、価格優位を追求し、スポット買いを増加し、在庫水準を低減することを検討できる。
このフェーズでは、いくつかの購買シナリオが検討される。それは、長期的な供給確保とともに短期的な機会探索での選択肢が提示され、想定リスク、コスト、効果および戦略的な方向性が明確に定義されたものである。その上で最適な選択肢が選別され、その実行目的、実施ステップ、担当と役割分担、不測事態発生評価基準が定義された計画が、トップマネジメントの承認を得た後で実行できる詳細度で作成される。最終成果物は、重要購入品目で実行タイミングと今後のアクションの実施基準を定義した、体系的に記述された一群の戦略書となるであろう。
実務に適用する
業界が違っても購入ポートフォリオマトリックスを適用可能なことは、4つの大企業での異なる経験から明らかである。しばらく前、欧州全域に事業展開し、工場と販売部門を持っている溶接材料メーカーが、競争激化と市場の成長鈍化から自社の利益が減少していることに気が付いた。このスキームを改善する方策を探索した結果、この企業は溶接ワイヤーと電極の製造でサプライヤーが重要な役割を果たしていることを発見した。同時に、470品目の5品目のみでこの企業の購入総額1億3500万ドルの6割以上を占めていることが判った。そこでこの企業は、需要の伸び、品質標準、ロジスティックスを考慮しつつ、かつ自社の工場ごとの要件に照らしつつ、これらの5品目の欧州市場の状況を分析していった。広範囲なサプライヤー個々に対する自社の位置づけを判定するとともに、単一供給源にすることで増加するリスクを評価していったのだ。
その結果、この企業は、サプライヤー構成を変え、価格、購入量、リスクに対する異なる仮定を置いたいくつかの戦略的供給シナリオを作成した。シナリオは、非常に低リスクなもの(既存の定評ある供給源に一括依存)から非常に高リスクなもの(知名度が低い、複数地域のサプライヤーからほとんどを購入)まで多岐にわたった。これに対してコスト・利益分析が行われ、シナリオ内容の改善が図られた。主要品目の1つの電線では、年間削減想定額は150万ドルから630万ドル、すなわち全コストの 3%から12%までの幅となった。一方、他の重要品目で立案した購買戦略では、平均で10%の削減を生み出し、税引前利益を3~4%押し上げる見込みとなった。そこでこの企業は、品目ごとにアクションプラン、モニタリングルール、判断ルールを定め、バイヤーに新ソーシング戦略を実施させるとともに、マネジメントが定期的(日々もしくは入札ごと)に購買活動をモニタリングできるようにした。