Blog" 支出分析(Spend Analysis)
定義・目的
  • 支出分析は、なにを(item or commodity)、誰が(requestor), どこから(supplier)、いつ(Period/Term)、どのような経路・手段で購入しているかを、金額・数量・件数面で明確にする活動です。
  • 支出実績を可視化し(achieving Spend visibility)、サプライヤーと購入者の両方の観点から買い方の改善機会を識別することを目的とします。
  • 主な改善機会には、集約化・標準化による購入価格の低減、コンプライアンスの確保、業務水準の向上・業務効率性の向上があります。


  • 支出の構造
    支出は、下図の構造となります。支出分析の対象は「モノ・サービスの購入に関わる支出」までです。それぞれの支出の区分値はベースライン(Sourcing baseline)として、支出分析結果も反映して、明確に定義しておく必要があります。

    支出の構造
  • 総支出(Total Spend): 損益計算書上の費用(Costs and Expenses)の総額
  • モノ・サービスの購入に関わる支出(Soucable Spend): 給与や租税公課などを除いたモノ・サービスの購入に関わる支出(今後、購買業務の管理対象になりうる支出)\
  • 管理対象にできる支出(Addressable Spend): モノ・サービスの購入に関わる支出のうち、現時点で購買業務の管理対象とすべき支出
  • 管理下にある支出(Managed Spend): 既に購買業務で管理できている支出
  • (管理下にある支出の目標範囲)(Target Scope of Managed Spend): 購買業務の管理下とする支出目標範囲

  • なお、The Hackett Groupの2014年の調査レポート(*2)によれば、ベストプラクティス企業では、
  • 「モノ・サービスの購入に関わる支出」のうちの96%が、「購買の管理対象にできる支出」となっています
  • さらに、「モノ・サービスの購入に関わる支出」のうちの87%が、「管理下にある支出」となっています


  • 支出分析の主要観点
    支出分析とは、様々な分析軸でデータを抽出・集計することにより、支出削減や業務改善の契機を見つけるために実施する作業です。 代表的な観点と分析(見える化)の事例を以下に記述しました。

    A.集約化・標準化による購入価格の低減(購入条件の改善)

    A-1.品目別購入額分布(全体把握)(Spend amount ratio by Category)

    「品目別購入額分布(全体把握)」では、支出データを購入品目(Category)別に集計し、品目別の購入額の大小分布を見ることで、注力すべき品目を明確にします。 改善効果の観点からみれば、支出金額が小さな品目に拘泥しても効果は限られてしまいます。 確実な効果達成を図るためには、相応の支出額を有する購入品目から優先的に対応しなければなりません。

    品目別購入額分布 左のグラフは、購入総額に対する品目別購入金額比率を表しています。金額比率の大きさに従って、品目を左から右に並べています。

    このようなグラフを作成してみることで、効果を達成するという観点から、どの品目に取り組むべきかが見える化できます。 例えば、金額の少ない「研究資材」ではいかに手を尽くしても支出削減効果は限定的です。 それならば、金額の大きい「製造副資材」や「情報システム」から考えてみようかといった検討の切り口が明確になります。

    このように「品目別購入額分布」の集計は、品目の取り組み優先順位を考える場合などに有効です。

    A-2.サプライヤー集約(Supplier Rationalization)

    次に、個々の品目での購入状況に目を移してみましょう。
    ある購入品目において多数のサプライヤーから購入している場合、購入先サプライヤーを少数に絞り込めれば、購入単価の低減や購入条件の改善を行える可能性があります。 そしてその検討を行うためには、どのサプライヤーからいくら購入しているのかの見える化が不可欠になります。

    サプライヤー集約 左のグラフは、購入金額の大きいサプライヤーから小さいサプライヤーへと、購入額累計を線で結んだ、いわゆるパレート図の簡略版です。

    現在は、購入額の8割分を12社が占めている状態で、集約が不十分です。しかし自動車リースであれば、価格およびサービスに優れる1社に集約してしまうことも考えられます。


    A-3.購入要求の集約(Demand Aggregation)

    別の集約化の観点として、購入要求の集約(購入品の仕様標準化)があります。
    購入品目の中で多様な種類の購入品がある場合には、統一仕様の標準品に購入を集約することで、購入単価の低減や購入条件の改善が見込めます。

    購入要求の集約 左のグラフは、標準品が定義されていながら、標準品以外の品物が買われている状況を見える化したものです。 標準品の購入額、および非標準品の価格帯別購入額分布を表しています。

    筆記用具では、標準品(単価70円)よりも高額な非標準品の購入が、総額としては多くなっています。標準品の購入を徹底できれば、かなりの支出削減が見込めます。

    しかし非標準品の300~400円価格帯が特に多くなっています。
    もしかすると、標準品では充足できない300~400円価格帯の購入ニーズがあるのかもしれません。その場合は、その価格帯での新たな標準品の要否を見極める契機にもなります。

    なお、集約化の観点としては、サプライヤーや購入品以外にも、発注部門の集約があります。
    その状況の見える化も支出分析の対象となります。

    A-4.契約期間の統一(Contractual Term Integration)

    購入契約の期間がバラバラである場合は、契約期間を一律に長期化することで、購入単価の低減や購入条件の改善が見込めます。

    契約期間の統一 左のグラフは、サービス購買の契約期間別の購入金額を表したものです。

    都度発注がかなりの比率を占めていますが、繰り返し性のある業務であれば一定期間での期間契約に取りまとめる方が、購入単価を削減できる可能性があります。 また、発注に伴う業務量の節減にもつながります。

    一方で、市場単価が低下傾向にある場合には、例えば1年以上といった長期契約は、かえって高値買いを招く可能性が考えられますので注意が必要です。

    A-5.支払期間/条件の統一(Payment Term/Type Integration)

    支払期間・支払条件がバラバラである場合は、支払期間の長期化や支払条件の改善を行えば、購入単価の低減や購入条件の改善が見込めます。 また支払期間の見える化は、下請法対象サプライヤーに対して、受領後60日以内に支払いが行われているかの確認ともなります。

    支払期間の統一 左のグラフは支払期間別の購入金額を表したものです。

    下請法対象外サプライヤーは、30日以内から120日以上までバラついています。 より長期の支払期間に統一することによる、キャッシュフロー改善を検討する余地が考えられます。

    一方で、下請法対象サプライヤーでは、検収後45~60日のサイトでの支払いが見られます。 受領後60日以内の支払になっているかの確認対象となります。 また、支払サイト90~120日になっている分がありますが、これに対しては遅延利息支払措置が行われている必要があります。

    このように、支払サイト別に購入金額分布を集計することで、支払サイトを調整し、支払金利面からのキャッシュフロー改善を検討することができます。

    B.コンプライアンスの確保による購入価格の低減(購入条件の改善)

    B-1.バイパス購買の抑止(Reduction of Marveric/Bypass buying)

    正規の手順を経由しないで購入が行われていないかは、分析の観点の1つになります。
    正規の購買手続きを経由しないで購入要求者(Requester)が市場価格などで高値買いを行っている場合は、購買部門が決定した価格で購入に手順を修正することで購入単価の低減が見込めます。 また、注文書なし発注の発生状況を把握することは、下請法などへの法規制抵触リスクを抑制します。

  • 購買部門バイパス支出(Procurement Bypass spend):購買部門の正規手続きを経由せずに、購入要求者/購入部門が独自に購入発注を行うことを指します。 購買集約の阻害要因となるとともに、一般に購買部門設定価格よりも高値買いになります。 以下の「注文書なし発注」と「立替払精査」は、バイパス購買の一形態と考えることができます。
  • 注文書なし発注(Non-PO Spend):注文書を発行せず、口頭などで発注し、納品・請求書受理を行っている場合です。 特に、下請法対象サプライヤーに対しては書類交付義務があるため、「注文書なし発注」は法規制に抵触するリスクを発生させます。
  • 立替払精算(Expense reimbursement):購買部門を経由して購入すべき購入対象を、個人立替払の領収書で精算している場合です。一般に市販価格での高値買いが生じています。 購買集約の阻害要因となるとともに、定価/市販価格での高値買いになります。
  • 承認がない購入(Nonapproved Spend):予算執行などの必要な承認手続きを経由しないで購入されている場合です。内部統制上、問題となる行為です

  • 購買部門バイパス購入 左のグラフは事業所・部別にどの部門がソーシング(購入価格決定)を行っているかを表したものです。

    購買部門バイパス支出が特に多いのはA事業所で、特にC部とF部で顕著です。製造副資材の購買のため、なじみの出入り業者がいるなどの要因があるのかもしれません。 その原因を調査し、バイパス支出をなくすことが、購買支出削減と業務ガバナンスの向上の両面で有効です。

    B事業所では、J部に購買部門バイパス支出が見られます。これは購買部門(H部)が対応できないため発生している可能性があります。購買部門としての対応を見直す契機にもなります。

    C.業務水準の向上・業務効率性の向上

    C-1.業務サイクルタイムの改善(Improvement of Cycle Time)

    購入要求者からの購入要求の受理、見積依頼の送付、見積もりの受理、契約/発注完了などの業務イベントごとの実施時刻記録(タイムスタンプ)があるデータが入手できれば、 各業務にかかった時間を算出し、業務の迅速性・効率性向上の検討に用いることができます。

    C-2.品質・納期の実態把握(Delivery Date/Quality Violation)

    サプライヤーからの納入予定・実績、およびサプライヤー納入品質の評価データが入手できれば、購入品の納期順守状況や品質レベルが把握でき、その改善の検討材料にできます。

    D.ウェーブチャート(Wave Chart)

    「A-1.品目別購入額分布(全体把握)」では、購入金額の大小から、取り組み優先順位を考える事例を説明しました。 それに加えて、削減効果の大小と実施の容易性の評価基準を定義し、その基準に従って各品目を評価した結果をプロットした図をウェーブチャートと呼びます。 品目をプロットしたうえで、最も優先順位が高いWAVE1から優先順位を定義していくのに適用できます。

    ウェーブチャート 左のグラフでは、縦軸に「期待効果」、横軸に「導入容易性」をとり、その基準にそって評価した各品目をプロットしています。 また、円の大きさは購入金額を表しています。

    期待効果と導入容易性の両面から、優先順位が最も高いと考えらえれるのがWAVE1の各品目です。その中でも、購入金額が大きい「出張旅費」が狙い目と考えられます。


    支出分析に用いるデータと考慮点
    支出分析に用いるデータは、以下のような項目を持っていることが望まれます。 そのようなデータを、Excelのピボットテーブル機能のようにクロス集計しつつ、その集計対象を絞り込んで、対処すべき対象を見つけ出すのが、支出分析の操作です。

    支出分析の操作 (支出分析に必要なデータ項目-集計対象)
  • 購入単価
  • 購入数量
  • (購入金額(=購入単価x購入数量)

  • (支出分析に必要なデータ項目)
  • 購入品目
  • (購入アイテム:購入アイテムを一意に識別できる番号、直接材の部品番号(parts numberなど))
  • (勘定科目/補助科目)
  • 摘要・コメント
  • サプライヤー
  • 購入要求部門 (必要に応じて、事業所・事業部・会社などの組織上位情報)
  • 購入要求者
  • 購入要求承認者
  • 購買担当者
  • 支払期間(サイト)/支払条件
  • 契約期間
  • 各種タイムスタンプ(購入要求起票、購入要求承認、購入要求の購買部門受理、購買部門から見積依頼の送付、 購買部門での見積もりの受理、契約実施承認、契約/発注完了、納入、検収、請求書受理、支払承認など)
  • 納入予定日
  • 品質不良 など

  • (注)支出キューブ(Spend Cube)として下図のような立方体が示されることがありますが、これは模式図として描かれたものであり、分析の集計軸は通常3つ以上存在します。
    支出の構造

    (支出分析における考慮点)
    支出分析に用いるデータは、件数が大量になることから、PC上で操作するに限界が生じる場合があります。 また組織で支出分析データの共有が必要になる場合もあります。 そのような場合には、サーバー上に支出データ分析用データベースを構築して、データの共有利用を図る必要があります。 ただしその場合でも、データをPCに抽出して加工できるようにしておくことが重要です。

    間接材では、経理データなどのように必要な項目やコードが付与されていないものから、支出分析用データを作り出さねばならない場合があります。 また、分析に必要なデータ項目を追加付与することが、直接材でも間接材でも必要になる場合があります。 これらを行うには、データを準備する「ETLA (Extract-Transform-Load-Analyze)手順」を誂える必要が生じます。


    効果と費用
    効果(Benefits)
    APQCの2012年調査レポート(*3)によれば、支出分析を導入している企業の購買業務コストは、導入していない企業の約半分となっています。支出分析により、注力すべき領域が絞り込めていることに起因しているためと考えられます。

    工数(Workloads)
    手順
    支出分析の手順

    支出分析では、「概要-支出分析の主要観点」のような分析を、支出分析用データを使って実施する「データ分析 (Analyze)」が適正に実施できなければなりません。 そのためには、前処理としての「データ作成(Data Generation)」、および後処理としての「フィードバック」プロセスも、同時に成立させておく必要があります。

    ■前処理 - データ作成(Data Generation)

    支出分析用データを準備する前処理「データ作成」は、以下の4つの部分より構成されます。
  • データ抽出(Extract):データ源を見つけて(identify)、そこから必要なデータ項目を含んだデータを抽出(Extract)してくる作業が、データ準備の最初となります。
  • データロード(Load): 次に、データを編集(transform)して、取り込み(upload)する操作が必要になります。
  • クレンジング(Cleanse):取り込んだデータの不適正個所を修正する作業です。重複データの削除、値の誤りや不統一(「完了」,「100%」,「OK」など異なる表現となっている同義値の統一など)を行います。
  • エンリッチメント(Enrichment):最後に、取り込んだデータ項目の値に対応するコードや分類区分を付与します。

  • この4つのプロセスを経由して、支出分析用データが準備されます。
    なお、これらの作業は、都度手作業で行うことも可能ですが、大量データを処理する提携作業のため、情報システムを使った自動処理を構築することが望まれます。

    ■後処理 - フィードバック

    データ分析作業を実施しているうちに、データ準備時点での処理誤りを発見する場合があります。その際のデータ値や自動変換ロジックの修正手順を「フィードバック」プロセスとして予め定義しておき、発見都度、そのプロセスを実行する必要があります。